ジギタリス

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ジギタリス
Digitalis purpurea
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : キク類 asterids
階級なし : シソ類 lamiids
: シソ目 Lamiales
: オオバコ科 Plantaginaceae
: ジギタリス属 Digitalis
学名
Digitalis L.
タイプ種
Digitalis purpurea L.
和名
キツネノテブクロ(狐の手袋)
英名
Digitalis(通称はFoxglove)

ジギタリス(実芰答里斯[1][注釈 1]: Digitalis)とは、オオバコ科[注釈 2]ジギタリス属(キツネノテブクロ属、学名: Digitalis)の総称である。狭義ではジギタリス属の特定のDigitalis purpurea)を指す。

解説[編集]

地中海沿岸を中心に中央アジアから北アフリカ、ヨーロッパに20種あまりが分布する。二年草多年草だけでなく、低木も存在する。園芸用に数種が栽培されているものの、一般にジギタリスとして薬用または観賞用に栽培されている種は、Digitalis purpureaである。

学名のDigitalis(ディギターリス)はラテン語で「」を表すdigitusに由来する。これは花の形が指サックに似ているためである。数字のdigitやコンピューター用語のデジタル(ディジタル、digital)と語源は同じである。大きさは最大200㎝ぐらいになる。

西洋に伝わる俗説[編集]

西洋でジギタリスには、暗く寂れた場所に繁茂し不吉な植物としてのイメージが有るとされる。いけにえの儀式が行われる夏に花を咲かせるため、ドルイド達に好まれると言われる。「魔女の指抜き」「血の付いた男の指」などと呼ばれていた地域もある。メーテルリンクは「憂鬱なロケットのように空に突き出ている」と形容している。

毒性と薬効[編集]

ジギタリスは全草に毒を有するため、観賞用に栽培する際には取り扱いに注意が必要である。ジギタリス中毒とも呼ばれる副作用として、不整脈や動悸などの循環器症状、嘔気・嘔吐などの消化器症状、頭痛眩暈などの神経症状、視野が黄色く映る症状(黄視症)などが挙げられる。

その機序は、細胞膜にあるNa+ K+ ATPaseを阻害して、細胞内のNa+およびCa2+濃度を上昇させ、心筋の収縮性を亢進させる事である。

ジギタリスの葉を温風乾燥した物を原料としてジギトキシンジゴキシンラナトシドCなどの強心配糖体を抽出していたが、今日では化学的に合成される。古代から切り傷や打ち身に対して薬として使われていた。1776年に、英国のウィリアム・ウィザリング強心剤としての薬効を発表した[2]。それ以来、鬱血性心不全の特効薬としても使用されている。以前は日本薬局方Digitalis purpurea を基原とする生薬が「ジギタリス」「ジギタリス末」として医薬品各条に収載されていたが、いずれも第14改正日本薬局方第2追補(2005年1月)で削除された。

ゴッホが「ひまわり (絵画)」などで鮮やかな黄色を表現したのは、ジギタリスの服用による副作用の黄視症だったのではないかという説もある[3][4]。なお、ゴッホの晩年の作品「医師ガシェの肖像」には、ジギタリスが描かれている。

相互作用[編集]

カルシウム拮抗剤との薬物相互作用が報告されている[5]

栽培[編集]

花を目的として、花壇などで栽培されている。5月から6月に種子を播くと、ほぼ1年後に開花する。種子はかなり細かいので、浅い鉢に播き、受け皿で吸水させて発芽させる。水はけの良い土地を好むが、高温多湿にやや弱く、日本の暖地では栽培が難しい。

下位分類[編集]

  • Digitalis canariensis L.
  • Digitalis cariensis Boiss. ex Jaub. & Spach
  • Digitalis ciliata Trautv.
  • Digitalis davisiana Heywood
  • Digitalis dubia Barb.Rodr.
  • Digitalis ferruginea L.
  • Digitalis grandiflora Mill. オオバナジギタリス
  • Digitalis isabelliana (Webb) Linding.
  • Digitalis laevigata Waldst. & Kit.
  • Digitalis lanata Edwards[6] ケジギタリス
  • Digitalis leucophaea Sm.
  • Digitalis lutea L. キバナジギタリス
  • Digitalis mariana Boiss.
  • Digitalis micrantha Roth ex Schweigg.
  • Digitalis obscura L.
  • Digitalis parviflora Jacq.
  • Digitalis purpurea L. ジギタリス
ジギタリスは別名をキツネノテブクロ(英名のfoxgloveの直訳である)と言う。ヨーロッパ原産だが、観賞用あるいは薬用に世界中で栽培される。高さ1メートル前後で分枝しない。種小名のpurpureaは「紫」の意味だが、白やピンクの花色の園芸品種も存在する。
  • Digitalis sceptrum L.f.
  • Digitalis thapsi L.
  • Digitalis trojana Ivanina
  • Digitalis viridiflora Lindl.

ギャラリー[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 実芰答利斯、実芰答利私などとも当てる。なお、中国名は毛地黄である。
  2. ^ 従来の分類法新エングラー体系ではゴマノハグサ科に分類されている。

出典[編集]

  1. ^ 金沢庄三郎 編「ジギタリス(実芰答里斯)」『広辞林』(新訂)三省堂、1934年、836頁。 
  2. ^ 木下武司 「強心薬ジギタリスのお話」 帝京大学薬学部附属薬用植物園
  3. ^ ダウンシーとラーション著、柴田譲治訳『世界毒草百科図鑑』55ページ(2018年、原書房刊)
  4. ^ W N Arnold, L S Loftus (1991). “Xanthopsia and Van Gogh's Yellow Palette”. Eye (Lond) 5 (Pt 5): 503-10. doi:10.1038/eye.1991.93. PMID 1794418. 
  5. ^ ジギタリスとCa拮抗薬の薬物相互作用 臨床薬理 Vol.24(1993) No.1 P237 - 238
  6. ^ William Henry Edwards or シデナム・エドワーズ

参考文献[編集]

外部リンク[編集]